インド・タタ(TATA)社は、世界でもっとも安価な約20万円の自動車「ナノ(NANO)」を発売し、世界の注目を集めています。同社はインド最大の財閥企業。ジャガーやランドローバーといった自動車ブランドにとどまらず世界有数の鉄鋼会社コーラスを買収するなど、国際的な企業として成長を続けています。しかしその陰で、絶滅危惧種であるヒメウミガメの繁殖地を脅かす巨大な港の建設を進めています。
ヒメウミガメは集団産卵をすることで知られていますが、その適地は世界中でもごく限られています。インド東岸のガヒルマタ海岸は、いまでも毎年20万から50万匹のヒメウミガメが産卵にやってくる極めてまれな砂浜です。ところが、そこからわずか12kmほど北側のダムラに、タタ社が巨大港を建設しようとしているのです。
巨大港の建設にともなって、その北西部10キロメートルにわたる産業地区の開発も計画されています。工事が進めば、これまで月光と星あかりしか届かなかった夜のガヒルマタ海岸を人工的な光が照らし、ヒメウミガメにとってこの海域での繁殖は困難になると考えられます。これがインド洋のヒメウミガメにとって致命的な事態を招くことになるかもしれません。
タタ社は、ダムラの港湾工事が近隣環境に与える影響について精査するアセスメントに同意したものの、すでに始まっている浚渫(しゅんせつ:土砂をさらうこと)の停止は拒否しました。このままでは、包括的なアセスメントを行うことは不可能です。また、浚渫そのものが修復不可能な環境変化をもたらす可能性もあります。