解説)妊婦さん注意!サイトメガロウイルス
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妊婦さんにとって注意が必要な「サイトメガロウイルス」について。6月22日(金)のあさイチで放送した科学文化部・田中陽子記者の解説です。
(田中記者)サイトメガロウイルスは、昔からあるウイルスで、従来多くの人が体の中に持っています。ところが、いま免疫を持たない人が増えています。健康であれば感染してもほとんど症状が出ることもないのですが、妊娠しているときに初めて感染すると、猛威をふるうことがあるのです。どういうことなのか、まず、その実情からご覧ください。
【VTR-1】
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神奈川県に暮らす、主婦の相原知子さんです。5歳と3歳の2人の娘の母親です。
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次女の未来ちゃん。未来ちゃんは、母の胎内でサイトメガロウイルスに感染し、生後様々な障害に悩まされています。進行性の難聴で、1歳になった頃から耳が聞こえづらく、補聴器をつけています。言葉の発達が遅れ、会話の多くは手話で行っています。
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また、生まれた時から肺の機能が低く、体に酸素を取り込みにくいため、24時間酸素チューブを外すことができません。 遊ぶときも長さ13メートルのチューブをつけたまま。外出も容易ではありません。
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「今後、どんな影響が出てくるか、成長がどうなるか分からないと言われていて・・・。難聴も、これから聴力が落ちてくることの方が大きいので、どの位これから落ちるのか、もしかしたら全く聞こえなくなってしまうんじゃないかと思うと、今聞こえているものがもっと・・・すみません。なので、今聞こえているうちにいっぱい言葉を入れてあげようと思っているんですけど・・」
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未来ちゃんが感染したサイトメガロウイルスは、ヒトの唾液や尿に多く含まれています。
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通常は、子どもの頃に友達や兄弟から感染することが多いといいます。どんな年齢でも感染する可能性がありますが、健康であれば症状が出ることはほとんどありません。
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しかし、妊婦になって初めてこのウイルスに感染すると、胎児にも母子感染し、生まれてから難聴や脳の障害などを引き起こす可能性があります。
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未来ちゃんの場合、わずか934グラム。早産で生まれました。 肝臓や肺に異常が見つかり、調べた結果、ウイルスによる感染が判明しました。
未来ちゃんがお腹にいたとき、相原さんは、長女のオムツを替えたり、離乳食をあげることに忙しかったといいます。そんな時、長女の唾液や尿から感染したのではないかと見られています。
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「妊婦の時に知っていれば、もっと気をつける要素があったんじゃないかと思って、自分はかかってしまったことに、もっと気をつけられたんじゃないかと思うと、ちょっと自分を責めてしまったというか・・・」
【スタジオ】
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A) この「サイトメガロウイルス」。どこにでもあるウイルスで、主に唾液や尿などに多く含まれています。 感染経路としては、子ども同士で遊んだり、一緒に食事をしたりしているときに、よくよだれや鼻水がお互いについたりしますよね。それが、体内に入って感染するんです。 妊婦では、2人目の子どもを妊娠したときが多く、上の子どもの世話をしていて感染するパターンがほとんど。 VTRの相原さんの場合も、その可能性が高いと見られています。
Q未来ちゃんのようなお子さんは、どれくらいいるんですか?
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A) 現在、推計で、年間およそ1000人の子どもがこのウイルスによる障害を起こしているとされています。 その数は、ここ15年で、約2倍になっている調査もあります。
Q) なぜ、そんなに増えているんですか?
A) 実は、このサイトメガロウイルスに感染したことがない、”免疫を持たない”女性が増えてきているからなんです。 30年前、日本で免疫のない妊婦は4パーセント程度でしたが、今では凡そ30パーセントにまで急増しています。20代の女性の2人に1人が免疫を持っていないと見られています。 その理由は、子どものときの遊びが変わってきていること。子ども同士で取っ組み合ったり、じゃれあったりするような遊び方をしなくなっている。 また、世の中が清潔志向になり消毒するあまり、子どものときに感染しないまま大人になるケースが増えていると考えられています。
では、どうしたら赤ちゃんを守れるのか。対策の現状をご覧ください。
【VTR-2(対策は・・)】
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(神戸大学病院 産婦人科) こちらでは、2年前から妊婦の検診にサイトメガロウイルスの免疫の有無を調べる検査を導入しています。 現在、このウイルスを予防するワクチンはありません。 そのため、妊婦に免疫がないことが分かると、感染を防ぐため徹底した指導を行っています。
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オムツ交換の後などに手洗いをこまめにすることや、食事の際に子どもが使ったスプーンを口に入れないことなど、事細かに注意を呼びかけています。
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「知っていないためにですね、予防することができなかったという例が沢山あって、医者か看護師が説明することが大切だと思います。」
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(長崎大学病院) 生まれてきた赤ちゃんが感染していないか、検査を行っている病院もあります。
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生後すぐの赤ちゃんのオムツに専用のろ紙をはさみ、尿からウイルスを検出する仕組みです。
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1人あたり750円ほどで調べることができます。 早期にわかれば、薬で障害の程度を軽くできる可能性も高いといいます。 しかし、検査を行う病院は、まだ全国でも数箇所に限られています。
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「このウイルスに感染した赤ちゃんみんなが症状があるわけではありません。 そういう赤ちゃんたちを確実に診断する方法として、生まれてきた赤ちゃん全員にスクリーニングの検査をするということが必要だと思っています。」
【スタジオ】
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A) ご覧頂いたように、まだまだ対策は進んでいません。
ワクチンもまだ開発されていませんので、特に妊婦さんは、自分が免疫を持っているかどうか、調べることが大切なのです。 しかし、妊婦検診にこの検査を必ず盛り込んでいる医療機関はごくわずかですので、心配な方は、かかりつけの産科で検査を受けたいと相談してみてください。検査自体は血液検査をするだけなので、2000~3000円で行うことができるはずです。
そのうえで、妊婦さんは、こちらのことに注意してください。
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子どもの唾液や鼻水、おしっこから感染することが多いので、(1)こまめに手洗いをする、(2)食べ物・飲み物・食器の共有をしない、ということを励行すれば予防することができます。
Q) 上の子どもがいる場合、感染しているかを調べたほうがいいのでしょうか?
A) 子どもは、日々の生活の中で、いつ感染するか分かりません。調べたときに感染していなくても、その後感染する可能性も高いです。 ですから、子どもは、感染しているものとして接した方が良いということです。
Q) では、子どもがすでに母親の胎内で感染してしまっていたら?
A) 全員に障害が起きるわけではないし、感染してもいつ症状が出るのか、どの程度かというのは、個人によって全然違います。 感染していた場合、早期に治療することで、障害の程度を軽くできる薬があり、生後1ヶ月以内に投薬すれば大きな効果が期待できるということがわかっています。 ですから、長崎大学で行っているような赤ちゃんの検査が大切になります。 赤ちゃん全員が検査を受けることができる体制を作ることが求められます。
以上、妊婦さんに注意が必要な、サイトメガロウイルスについてお伝えしました。
取材に応じていただきました、相原さま、医療関係の皆さま、本当にありがとうございます。http://www9.nhk.or.jp/kabun-blog/600/124738.html