塩素という言葉をお使いですが、まず、本質と言葉の使われ方について整理しましょう。
塩素という元素そのものは、生き物すべてが体の中の液体部分に含んでいる基本元素のひとつで、決して悪者ではありませんが、かといって、塩素という元素だけが単独に存在しているのではなく、パートナーとなるカルシウム、カリウム、ナトリウム、マグネシウムなどの元素といつも対になって「イオン」と呼ばれる姿で活動しています。その場合は、殺菌や消毒のイメージとはかけ離れた状態で生命活動に使われているわけです。
塩素という元素そのものは、反応力の強い原子で、金属とすぐに反応します。塩素ガスは工業的に作りますが、そのままでは強烈にほかのものと反応するので、特殊なボンベ等に保存しないと危険なので、普通は塩素という形ではお目にかかれません。
ところが至るところで塩素という言葉が出てきますが、それらはみんなほかの元素とくっついた化合物として姿を見せています。たとえば、上で述べたナトリウムやカルシウムも金属のなかまで、塩素とは非常に結合しやすいもので、結合したものが一般的に「塩」と呼ばれています。その中でもっとも一般的なのが食塩で、化学式で書くとNaClとなります。この化学式にある二つの元素のうちClが塩素にあたります。Naはナトリウムです。海の水の塩もほとんどはこの塩化ナトリウム(食塩)です。
つまり、身近な塩というものが常に塩素を含んでいるので、よく目にする言葉になっているのです。
このことから、潮風に含まれる水滴の中の主な塩の成分はNaClで、浴びているのは塩素ではなくて食塩なのだと考えて下さい。
食塩が水に溶けているときは確かにナトリウムと塩素がどちらもイオンという形で離れて存在しますが、乾いてしまうと結合してNaClになっているのです。
さて、つぎに水道水に移ります。
水道水の塩素臭さを言うときの塩素は、これもまた塩素そのものではありません。次亜塩素酸(化学式ではHClO)という化合物で、塩素を水に溶かしたときにできるものです。ハイターなど家庭用の漂白剤の主成分が次亜塩素酸ナトリウム(ソーダ)と標記されていますが、その漂白成分がこの塩素臭を持つ化合物です。たいへん反応性の強い化合物でその反応性のもとが塩素であることは事実です。ただ、単独の原子として働いているのではなくて、次亜塩素酸イオンという形で働いています。
日本の上水道は古くからこの次亜塩素酸を使った消毒によって、湖や川の水を消毒して供給されてきています。一部にはオゾン消毒という方法もとられてきていますが、次亜塩素酸消毒、つまり塩素消毒といわれている方法は実績もあり、コストも低いので、使われ続けているわけです。そして、その残留濃度も水道局が毎日管理しているわけで、決して人体に危険がある濃度になってはいないことも事実です。
とはいえ、水道水でそのまま金魚を飼うと死んでしまうことがあるように、人間にとってはどうにかなる濃度でも、水の中に済んでいる動物にとっては厳しいのも確かで、そこで、最近は塩素を除去する活性炭フィルターなどがおいしい水を作るために盛んに売られているのです。塩素臭い水は確かにおいしくはないですね。
以上、長くなってしまいましたが、塩素という元素と一般に使われている塩素という言葉を分けて考えて下さい。
そして、体にとって必要な塩素は塩(しお)として取り入れていて、殺菌などに使う塩素は主に次亜塩素酸という化合物なのだということを憶えてください。
塩以外の形で塩素をからだに取り込むことはあり得ないことです。したがって、もし塩素そのものをガスで浴びたらたいへんなことになるのだと認識してください。即座に呼吸できなくなります。
余談ですが、次亜塩素酸系漂白剤(アルカリ性)と酸性洗浄剤(塩酸を含む)を混ぜると、このときは塩素ガスそのものが発生してたいへん危険です。塩素ガスは通常の環境では存在しないのですから。
よく「混ぜるな危険」と書いてある商品がありますが、そういう目でながめてみてください。